2015年10月19日月曜日

維新の党分裂騒動における現執行部の正統性の検討メモ

橋下徹氏が維新の会の現執行部は無効と主張している。

http://lite.blogos.com/article/139181/
大阪系の国会議員を除名処分ってやってるけど、それ何の権限に基づいているんだい?維新の党の松野代表は任期切れでもう代表ではない。代表の任期切れに伴って執行部も任期切れ。今、維新の党には代表も執行部も不在の状態なんだ。松野氏たちは何をはりきってるんだろ?

彼の言うことは本当だろうか。維新の会の現執行部の除籍処分は法的有効性を有するか。特に、代表選を延期した点は、現執行部の正統性を失わせるか否か。共産党袴田事件の類推適用により、代表選延期の決定は有効であり、同時に現執行部の存在も正統性を有する、というのが私の結論である。

共産党袴田事件 
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/133-3.html
政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない。

上記判決を読むと除籍は、「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題」に当たるから、一見するとそもそも現執行部の正統性を問題としえない、と考えることもできる。しかし、上記判決では処分決定をなした執行部自体の正統性は問題としてないことを考えると、その正統性が問題となった今回の件に、上記判例は直接当てはめできない。ではどう考えるべきか。政党交付金が党員の一般市民としての権利に関わることを鑑みると、現執行部の代表選延期決定の有効性は、「処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合」を類推適用して考えるのが妥当と思われる。すなわち、代表選延期決定の有効性は、「当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決す」るのが妥当であろう。

そこで維新の党の規約を確認し、現執行部がなした代表選延期の決定が有効か否か、そしてその決定が現執行部の正統性を失わせるか否かを検討しよう。

維新の会の党規約 抜粋
https://ishinnotoh.jp/about/agreement/
(執行役員会)
第7条
本党に、次の各号に定める役割を担うため、執行役員会を設置する。
- 党運営に関する以下の規則について審議、決定する。
    - 代表選挙規則

(代表)
第8条
本党に、代表を置く。
- 代表の任期満了に伴う代表の選出は、党員による選挙によって行う。代表選出のための選挙は、代表の任期が終了する年の9月に行うことを通例とする。
- 前項に規定する代表選挙については、詳細を別途、代表選挙規則において定める。
本規約に定める機関の役員等の任期は、代表の任期に従うものとする。

上記より、代表選は9月に行うことが「通例」と表現されているため、状況によっては必ずしも9月に代表選を実施しないことも許されると解釈できる。維新の会に分裂騒動が起こっている以上、代表選を行える状況ではないためそれを延期するという現執行部の決定は、公序良俗に反するとは考えにくい。また、第8条に「本規約に定める機関の役員等の任期は、代表の任期に従うものとする」とあるので、代表選延期が有効ならば、連動して現執行部の役員全員も正統性を有すると言える。

以上より代表選延期の決定は有効であり、同時に現執行部の存在も正統性を有すると評価できる。

(追記 就任当初から無効論について)
このメモは橋下徹氏の発言(「松野代表の任期は切れているから現執行部の存在は無効」)に触発されて書いたが、驚くべきことに松野代表の就任当初から無効と主張している幹部も存在する。

http://sp.mainichi.jp/select/news/20151015k0000m010126000c.html
 馬場氏は、松野頼久代表が5月に選出された際、党規約で定めた党大会を経なかったことから就任は無効だと主張。国会議員や地方議員の過半数から党大会の招集を要求する委任状を集めており、24日に臨時党大会を開いて新執行部を選出し、政党交付金を分配する分党決議を行う考えを示した。24日に予定した新党設立の延期も検討する。

どういうことかと思ってちょっと調べた所、松野代表選出の具体的な手続きについて記述した以下の記事が見つかった。

http://www.jiji.com/sp/zc?g=pol&k=201505/2015051800689&pa=f
維新の党規約には、任期満了に伴う代表選選出の仕組みはあるが、任期途中で代表が欠けた場合の規定はない。幹事長室会議では「両院議員総会で過半数の賛成により新代表を選出できる」との規定案を急きょ作成。19日午前の執行役員会で了承されれば、同日午後に両院議員懇談会を開催。異論がなければ直ちに両院議員総会に切り替え、新代表選出に着手する方針だ。

そして実際に5/19に両院議員総会で松野氏が選出された。
 
http://www.sankei.com/smp/politics/news/150519/plt1505190038-s.html
 維新の党は19日、国会内で両院議員総会を開き、「大阪都構想」が住民投票で否決されたことを受け代表を辞任した江田憲司氏(59)の後任に、幹事長だった松野頼久氏(54)を選出した。

代表が任期途中で退任した場合の選出方法が規約に無かったというのは驚きだが、それでも冒頭で掲げた判例を類推適用して、この規約追加の有効性を「右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決す」ればよいであろう。

すなわち、任期途中で代表が欠いた場合に両院議員総会で過半数の賛成により新代表を選出できるという規定を、規約第7条第3項に基づき5月時点の執行役員会が追加したわけだが、この新規定やこれを追加した経緯は、公序良俗や条理に反しない以上、当然に有効である。

代表の任期についての別角度からの検討
維新の規約には以下の文言もある。

第8条第3項
代表の任期は、就任から3年後の9月末日までとし、重ねて就任することができるものとする。

松野氏が代表に就任したのは2015年の5月であり、就任当初、氏の任期は同年の9月までと発表されていた。しかし、この発表に関して規約やその他規則等に明文の規定がない場合は、執行役員会が代表選延期を決定した後に上記の規約第8条が補充適用され、最長2018年9月末まで代表の任期が延びるとも解釈できる。

松野氏が選出された時に適用された代表選挙規則やその他の細則の文書がネットでは見つからなかったので、詳細は不明だが、もしも任期についての規則が明文で定められていなかったとすると、上述の2018年まで任期が延びるという解釈も可能ではないだろうか。